私が一番近かったのに…
目覚めはあまりよくなくて。気分が悪かった。今もまだ昨日のことが、脳裏に張りついていた。

“会いたい気持ちに勝ち負けなんてない”

頭の中でこの言葉がずっと再生されていた。愁は私に『会いたい』と言ってくれた。
弱っている時に会いたいと思う相手が、彼女よりも私…?
そんなことあるはずがない。彼女の方が上に決まってる。
私はただの都合の良い女なだけ。それ以上でもそれ以下でもない。このボーダーラインを超えることはない。

本当は分かっていた。先に惚れた方が負けだということを。
つまり私は一生、愁には勝てないということだ。
何度も抱いてもらい、身体はたくさん満たされた。
それでもまだ足りない。どんどん欲張りになっていく。
寂しさを満たせないから、孤独感を感じるのかもしれない。

離れると決めた決意が一瞬、揺らぎそうになった。心のどこかで、まだ傍に居たいと願う自分がいた。
気持ちが揺らいでばかりだ。愁を振り払うことが、こんなにも苦しいなんて知らなかった。
そもそも愁を好きになったこと自体が、間違えだったのかもしれない。
好きにならなければ、友達としてもっと上手くやっていけた。今頃、苦しい想いをしなかったと思う。

そう思った瞬間、今日はバイトをズル休みしたくなった。
今は愁の顔を見たくないほど、愁に会いたくなかった。
でも急に休むわけにはいかないので、胸の痛みを抱えながら、今日一日を乗り切ることにした。
逃げても仕方がない。どの道、いつかは傍を離れなくてはならない。
それならせめて後悔のないように、好きでいてよかったと思って、この恋を終わらせたい。

愁の気持ちは、相変わらずよく分からないままだ。
私ことをモノみたいに扱う時もあれば、優しく女の子扱いしてくれる時もある。
どちらが本当の愁の顔なのだろうか。きっとどちらも本当の愁で、嘘偽りなどないのかもしれない。

もし、私が愁を想う気持ちが、恋愛としての好きではなかったら…。
一々、こんなことで惑わされたりしなかったのかもしれない。
愁はこういう人だからって理解することができたのかもしれない。
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