私が一番近かったのに…
それはそれで寂しい。愁が居たからこそ、知ることができたこの感情を、私はずっと自分の中で大切にしていきたい。
この想いが叶うことはなかったが、あなたが与えてくれた熱は優しかった。その時間だけは幸せだった。
重い足取りで、前へと進む。旅行までは大丈夫。期限付きなら、この先もまだ頑張れそうだ。

一瞬、いつもの自分が思い出せない時がある。どうやって笑ってたっけ?…なんて考えてしまう。
結局、いつも答えは出ないが、考えるよりも先に行動に移すしかなかった。
今はまだ愁の傍を離れるのが怖い。それでも、もうこれで最後だと決めた。
大切な人の傍を離れることは、とても勇気のいることだ。まだ今の私には、かなり時間が必要だ。
愁の傍を離れると決めたのだから、今のうちに愁と思いっきり一緒に過ごさないと、時間が勿体ない。
もしかしたら、このまま離れるタイミングを見失ってしまうかもしれない。
それでも自分で決めたことは、なるべく早く実行に移そうと思う。

でもまずは、旅行を楽しむのが先だ。
気持ちを切り替えてからは、いつも通りの私を取り戻せた。
そのまま一日があっという間に過ぎていき、今はようやくバイトが終わり、後は無事に家に帰るのみだ。

「幸奈、帰るぞ」

愁はいつも通りだ。その瞬間、緊張感が解けて、笑顔の仮面が剥がれ始めた。

「…幸奈?」

愁の声さえ耳に入ってこない。もう戻れないんだ。決めてしまった心が動き始めている。

「ごめん。ぼーっとしてた」

しまった…と思った。心の中を読まれたかもしれないと焦った。
私の気持ちがバレたら、愁に見放されてしまう。

「大丈夫か?疲れが溜まってるんじゃないか?」

そんなのはとっくの昔からで。疲れの原因は愁だ。
もうずっと心はギリギリで。そろそろ限界が訪れていた。
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