私が一番近かったのに…
愁の様子がなんだかいつもと違う。こんなに甘い言葉を囁いてくれたことなんてあったっけ?
少し前に場末な場所でやろうとしたことを、まだ後悔しているのかもしれない。

「だって、恥ずかしいんだもん。何回したってまだ慣れないよ…」

「それじゃ、慣れてもらうしかないな」

そう言って、愁は私を激しく抱いた。
お互いが果てるまで何度も…。


           ◇


「……ん…、あれ、」

目が覚めると、隣には愁の寝顔があった。
そうだ。私、途中で気絶しちゃったんだ。どうやら、そのまま寝落ちしたみたいだ。
寝落ちとは最低だ。あまりの気持ちよさに、気を失ってしまった。こんなことは初めてである。
愁、怒ってないかな?やる気満々だったから、申し訳ないことをしちゃったな。
まずはシャワーでも浴びながら、顔と身体を洗うことにしよう。その後、愁を起こせばいいよね…。
ベッドから立ち上がり、バスルームへと向かおうとしたが、身体が思うように動かない。
たくさん求め合ったせいか、足腰が立たないほど痛かった。
でも、無理矢理身体を起こした。

「幸奈、おはよ…」

愁が目を覚ました。ベッドから起き上がる微かな音にさえも敏感なようだ。
これからは音を立てないよう、気をつけることにした。

「おはよう。ごめん、起こしちゃったよね?」

「大丈夫だ。心配するな。自然に目が冴えただけだ」

本当にそうならいいんだけど…。
もし、私が起きた音で目を覚ましてしまったのなら、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだ。

「そっか。私、先にシャワー浴びてくるね」

重い腰を起こし、今度こそバスルームへ向かおうとした瞬間、腕を掴まれた。
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