私が一番近かったのに…
「愁?」

「まだ行くなよ」

掴まれた腕を引き寄せられ、ベッドの中へと引き戻された。
恥ずかしい。起きたてだから、髪もボサボサだし、顔もまだ洗っていない。
口臭は大丈夫かな?とか、顔は汚くないかな?とか、気になることが多く、上手く愁の顔が見れない。

「ここを出るまでは離さないって言っただろう。勝手にどこかへ行くなよ」

切なげな声にドキッとした。
でもどうして、私のことを好きでもないのに、そんな声が出せるのだろうか。

「ごめんなさい。起きたら汗で身体がベタベタしてて、気持ち悪かったから、シャワーが浴びたかったの」

昨晩はたくさん汗をかいたので、絶対に今、汗臭いであろう。
そんな臭い匂いを纏わせたままの状態で、愁の隣に居たくない。
だって、臭いって思われたくないから。好きな人には特に…。

「大丈夫だ。幸奈の身体は綺麗だ。汚くないし、良い匂いがする」

「そう?でも、やっぱりシャワー浴びたいな」

「じゃ、俺も一緒に浴びる」

愁にきつく抱きしめられた。私のことを離さないと言わんばかりに…。

「もう仕方ないな。シャワー浴びるのは諦めることにするよ」

「幸奈は俺と一緒にシャワー浴びたくないんだ」

声色が一気に変わり、怖くなる。そういう意味で言ったわけじゃない。
愁と一緒に入ると、再びこういった行為をすることになる。
せっかく汗を流したのに、また汗をかくのが嫌だ。
それに、こんなに甘えん坊の愁を放ってはおけなかった。傍に居たいと思った。

「そんなんじゃないよ。愁が甘えん坊さんだから、もう少しベッドの上でくっついてたいなって思っただけ」

「本当か?それならいいけど」

なんとか愁のご機嫌を取り戻すことができた。これで一安心だ。
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