私が一番近かったのに…
バスの時間もあるため、あまり時間がない。
このままだと急がなければ、バスに間に合わなくなってしまう。
身支度をササッと済ませて、玄関の鍵をかけて、待ち合わせ場所へと向かった。

いつもより足早になってしまう。愁に早く会いたい。一分一秒でも多く。
そうこうしているうちに、気づけばあっという間に、待ち合わせ場所へと辿り着いていた。
まだ朝も早いというのに、バス停にはたくさんの人で賑わっていた。
年末年始という長期休暇を利用し、帰省する人もいれば、旅行に行く人達もいる。
それでもすぐに人混みの中から、愁を見つけ出すことができた。
好きな人って不思議だ。人混みの中に紛れ込んでいても、簡単に見つけ出してしまうことができるのだから。

「愁、おはよう」

私が声をかけたことで、こちらに気づいてくれたみたいだ。

「おはよう」

満面な笑みで挨拶してくれた。どうやら朝から機嫌が良いみたいだ。
愁も楽しみにしてくれていたのだと思うと、私の表情筋が緩みそうになった。
私はこの旅行を、思い出に残るような素敵な旅にしたいと思っている。きっと愁も同じ気持ちであろう。
こんなに長い時間、愁と二人っきりになれるチャンスなんて、二度とないかもしれない。
だからこそ、今日は日常を忘れて、思いっきり楽しもうと思う。

「ごめんね。もしかして、遅刻しちゃった?」

「いや、大丈夫だ。俺が幸奈よりも、早めに来ただけだから。気にするな」

こういうさり気ない気使いが、愁の好きなところだなと思った。

「間に合ってよかった…」

時間がギリギリだったこともあり、ってきり遅刻したかと思っていたので、間に合っていたという事実に安心した。
好きな人との初旅行で遅刻なんて、絶対にしたくなかった。時間を守れない人間だと、思われたくないから。

「幸奈はいつも絶対に遅刻しない。いつもちゃんと時間通りに来るから」

私は必ず遅刻をしないと決めている。何故なら、相手を待たせたくないからである。
そんなことは人として当たり前の話なので、今更自慢するようなことでもない。
そもそも遅刻なんて、しないのが当たり前だからである。
それよりも今は、好きな人に些細なことであっても、覚えてもらえていたことが嬉しかった。
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