私が一番近かったのに…
「うん。そうだよ。絶対に遅刻はしない。
愁も遅刻はしないよね。愁のそういうところがす、…」

“好きだよ”と言いかけて、ふと我に返り、言葉に詰まる。
ダメ。好きだなんて言ったら。だって愁には彼女がいて。私はセフレ。これはただの浮気旅行に過ぎない。
間一髪で助かった。危うく好きだと言いかけるところだった。
常に自分の立場を弁えて、行動しなくてはならないというのに、油断していた。
これ以上、気を緩み過ぎないように、気をつけないと。

「す…?」

「そういうところが素敵だなって思ってるの!
ほらバス来たよ。早く行こう」

この場を乗り切るために、適当に誤魔化した。
こんな下手な嘘、愁には気づかれてると思うけど。

「あぁ。そうだな」

私の嘘に気づいても、調子を合わせてくれる。
やっぱり愁は優しい。嫌いになれたら楽なのに…。

「意外とバスの中、人多いな…」

バスの中に乗り込むと、殆ど座席が埋まっており、空席の方が少なかった。
高速バスは、途中の停留所で乗り込む人もいるが、既に出発地点でこの混み具合。
やはり時期が時期なだけあり、皆考えることが同じだ。

「そうだね。混んでるね…」

京都に着けば、もっと人が多いはず。
少し不安になってきた。もしかしたら、人混みで人酔いするかもしれない。
あまり人混みに慣れていないため、もし途中で具合が悪くなったりでもしたら、愁に迷惑をかけてしまうことになる。

「幸奈、大丈夫だ。とりあえずリラックスしろ。ほら先に座れよ」

窓際に座らせてくれた。通路側に愁が座ってくれた。

「あんまり気にするなよ。俺が付いてるんだから」

そうだ。私には愁が付いている。
それに愁は、私の言動で迷惑に感じたことは一度もない。
そんな愁に対して、迷惑をかけたらどうしようとか、不安に思う方が失礼である。
この際、たくさん助けてもらえばいいんだ。とことん今日は甘えよう。今日以外で甘えられる日なんて、早々ないんだから。
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