私が一番近かったのに…
「それは楽しみだな。俺、幸奈の匂いが大好きだから」

私の匂い?シャンプーの香りじゃなくて?
どうしよう。ドキドキが止まらないよ。こんなにも距離が近いと、心臓の音が聞こえていないか、気になった。

「私の匂いが好きなの?」

「大好きだよ」

ここはバスの中。もちろん、周りには他のお客さんもいる。
もし周りの人達に、今の会話を聞かれでもしたら、ただのイチャついてるカップルだと思われたに違いない。
そもそも私が愁の肩に頭を乗せたことが、事の発端の始まりだ。つまり自業自得である。
しかし、好きな人に好きだと言われてしまったら、本気で心臓が保たない。こんなの反則だ。

「この話はこの辺にしよう。他の人もいるから。
こんな話聞かれたら、恥ずかしいもん…」

今はどうしても、周りの人の目が気になってしまう。
狭い空間に数時間も閉じ込められた状態のまま、ずっと周りの視線を気にしながら過ごす。
そんなのとてもじゃないけど、私には耐えられそうにない。
それにバスの中でイチャつかれたら、迷惑に感じる人もいる。周りに迷惑をかける行為は、人としてよくない。
一番の問題は、私がもう限界だ。周りの人はどうでも良い。自分の身を守ることで精一杯だった。

「そうだよな。ごめん。
でもつい、思ったことを言いたくなっちまった…」

つい?愁ってもしかして、天然?
そうやって人を惑わして、何人もの女性が落ちたことであろう。
絶対、勘違いした人もいるはず。

「別にもういいよ。でも、時と場所だけは気をつけてほしいかな。
そろそろ出発するし、朝早くて寝てる人もいるから、今から静かにしましょ」

唇に人差し指を付けて、シーっ…てポーズをした。
愁は首を縦に頷き、そのまま二人共、眠りに落ちた。


           ◇


数時間かかるため、途中でトイレ休憩を挟む。
今、休憩所に停まり、休憩タイムになった。
私達は一旦、目を覚まし、トイレに行った。
トイレからバスへ戻る時、サービスエリアでお茶やお菓子なども購入してから戻った。
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