私が一番近かったのに…
「ごめんなさい。私、少し焦ってたかも。
もうこんなことはしません。心配してくれてありがとう」

愁の首筋にキスをした。本当は唇にしたかったけど、背が高い愁には届かなかった。
ヒールでも届かないほど、愁は背が高い。それとも、私が小さすぎるのかもしれない。

「はぁ。俺、今夜は爆発するかもしれないな。先が思いやられる。これだから天然は…」

喜んでくれるかと思いきや、どうやら逆効果だったみたいだ。

「ごめんね。私、怒らせるつもりはなくて。嬉しくて。それでつい…」

何を言っても言い訳にしか聞こえない。まぁ、言い訳をしていることに変わりないが。
せっかく楽しい旅行のはずなのに、私は何をやっても愁を怒らせることしかできない。
もっと上手く立ち回れるようになりたいな…。

「大丈夫。俺は怒っていない。どちらかというと、困ってる」

「どうして、困ってるの?」

「幸奈が無自覚のせいで、俺の(たが)を簡単に外してこようとするからだ」

今度は愁の顔が近づき、軽く唇に温かいものが触れた。
これは…愁の唇の感触。あれ?今、私、キスされたの……?

「もういい加減、分かってくれよ。俺がいつもどうやって、理性を抑えているかってことくらい」

どうやら知らず知らずのうちに、私は愁のことを煽っていたみたいだ。
そうとは知らずに呑気に過ごしていた私は、どうやらまた迷惑をかけてしまったみたいだ。何から何まで頭が上がらないなと思った。

「これでも考えて行動しているつもりなんだけどね。
でも、ごめんなさい。無自覚なせいで迷惑をかけちゃって…」

「謝ったところで、直せることでもないだろう。だから、あんまり気にするなよ。
ほら。ささっと飯食って、風呂に入るぞ」

男女が一夜を共に過ごすことには、特別な意味がある。
たとえそれが、ただ一緒に寝るだけであったとしても…。
< 137 / 346 >

この作品をシェア

pagetop