私が一番近かったのに…
私達の場合は恋人同士ではないが、男女の関係ではあるので、一夜を共に過ごすことに特別な意味がある。
今夜、抱かれるのだと思うと、途端に不安になってきた。今着けている下着の色とか、ムダ毛処理は大丈夫かな?…とか。
今更、気にしても仕方ない。どうせ下着は脱ぐから、何を着けてても変わらない。
下着よりも、無駄毛の方が心配だ。昨日の夜、ちゃんと処理もしたし、最終確認だってした。
今更になって、細かいことを気にしても、後には引けなかった。
それに愁は、ありのままの私を受け入れてくれるはず。
それでも全く手入れをしていないのと、しているのとでは受け取り方も全然違う。
それならば、少しでも綺麗にしていると思われたい。

「おい幸奈。早く行くぞ」

再び繋がれた手。今度は別の意味で、熱を帯び始めていた…。


           ◇


「飯、美味かったな」

「うん、美味しかったね」

部屋に戻って来てからというものの、ベッドの上に座り、他愛のない会話を繰り広げていた。
…あれ?ってきり、戻って来たら早々、するものだとばかり思っていた。

「いいレストランだったな。明日も楽しみだな」

さっき我慢してるとか言ってたよね?もうとっくに襲われていてもおかしくないはず。
もしかして、あまりにも私が子供じみた行動ばかりするから、呆れてやる気が失せちゃったとか?
いつもと様子が少し違うだけで、不安になってしまう。

「幸奈、あのさ、」

名前を呼ばれただけで、鼓動が速まる。
いよいよ、今から始まるんだ。心の準備がまだできていない…。
どうしよう。緊張してきた。今日は、どんなふうに激しく抱かれるのだろうか。

「な、何…?」

「先にお風呂に入れよ。疲れてるだろう?ゆっくり浸かってこい」

え?お風呂に入れって、それだけ?
勝手に一緒に入るつもりになっていた、自分が恥ずかしい。
今日は愁も疲れているから、ゆっくり一人で入りたいのかもしれない。
がっかりしている自分がいた。もしかしたら、本当は私の方が一緒に入りたかったのかもしれない。
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