私が一番近かったのに…
「ごめんね。お待たせ…」

「そんなに待ってないから、気にすんな」

ポケットに隠していた愁の手が、そのまま私の手を掴み、手を繋いだ。
不意打ちは心臓に悪い。心の準備ができていないから。

「男は待つもんだから。待ってんのが好きなんだよ」

こちらに気づかせない程度の、さり気ない優しさ。
いつもそう。そうやって、私の心の隙間に簡単に入ってくる。

「じゃ、これからも待ってくれる?」

「あぁ。勿論、これからも待ってやるよ」

繋いでいる手に力を込め、握り返した。
愁にいつまでも、同じ気持ちでいてほしいから。

「今日はまず、俺の行きたい場所から行ってもいいか?」

平静を装いつつも、同じように手を強く握り返してくれた。
それだけで嬉しくて。心が踊った。

「うん。いいよ。愁が行きたい所へ行きたい」

せっかく京都へやって来たというのに、特に行きたい場所がなかった。
だって今の私には、こうして手を繋いだり、腕を組んで歩けるだけで、充分幸せだから。

「なんか幸奈のその言い方、エロいな」

「え?そう?!」

「行きたい所っていうから、つい下ネタの方に捉えちまった」

どうして、そうなるのよ?そんなことを言われてしまえば、もう観光なんてどっちでもよくなってしまう。
落ち着け、私。今は理性が優先だ。大丈夫。私ならできる。

「もう。話の意味合いからして、違うって分かるでしょ?今から観光を楽しみましょ」

「なら美味しいお茶巡りはどうだ?
俺、京都に来たからには、美味しいお茶が飲みたいんだ」

京都の宇治抹茶には興味があるので、私もお茶を飲んでみたいと思っていたところだ。
せっかくの旅行。その土地ならではの食べ物や飲み物を、飲んだり食べたりしてみたいものだ。

「私も!抹茶飲みたい!お茶巡りしたい!」

愁と美味しいものを食べながら、美味しいお茶が飲めるのは最高だ。

「それじゃ、色んなお店へ行ってみようぜ」
< 143 / 346 >

この作品をシェア

pagetop