私が一番近かったのに…
意外な一面を知れた。どうやら愁はお茶が好きみたいだ。
まさか、お茶ではしゃぐとは思わなかった。

「うん。いっぱい回れたらいいよね」

「あぁ。回ろう」

愁の笑顔が見れただけでもう満足だ。
でも、もっと笑顔を私に見せてほしいな…と思った。

「うん、回ろう。楽しみ」

見慣れない景色や街並みに、はしゃぐ心を抑えきれない。
早くお店に着いてほしい気持ちで、胸がいっぱいだ。


            ◇


初めての場所なので、少し道に迷いながらも、案外すんなりとお店に着いた。

「よかった。無事にお店に辿り着いて…」

裏通りにある、ひっそりとしたお店だ。
サイトのレビューに、たくさん良い評価が書いてあったため、有名で人気のお店みたいだ。

「うん。本当によかった」

お店の中はそれなりに広く、外のテラス席まである。
それなりに人はいるが、まだそんなに混んでいない。
私達は寒さに耐えられないため、店内の席にした。

「早速頼むか。何にしようかな…」

愁の場合、甘いものより、お茶が目当てなのであろう。
私はどちらも楽しみだ。

「私は決まったよ。愁は?」

「俺はうーん…、迷うな」

こんなに悩む愁は、珍しいかもしれない。
好きなものに真剣に悩んでる姿に、思わずときめいてしまった。

「大丈夫。今度は私が待ってますから」

女だって待てる。好きな人のためなら…ね。
なんて心の中だけで呟いてみた。

「それは男の特権だろう?女を待たせるのは男の恥だ。でも、」

腕を掴まれた。時が止まったかと思った。
どうしよう。この先の展開を全く想像できない。私、どうなっちゃうの?、と思ったその時だった。展開は動き始めた。

「幸奈には時々、待っていてほしくなるんだよな。
俺に黙って、どこかへ行かないでほしいって。
これってもしかして、嫉妬かもな」

嫉妬?セフレの私に?愁が私のことをどう思っているのか、益々分からなくなってしまった。
所有物が他の誰かに()られたくないのかな。それともそれ以上の感情なの?
期待はよくない。絶対にダメ。だから、諦めがつく方に解釈した。
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