私が一番近かったのに…
「へぇー。愁でも嫉妬するんだ。意外」

「お前は人をなんだと思ってるんだ?
俺はこれでも結構、嫉妬する方だ。独占欲が強いからな」

知らなかった。今まで愁の気持ちを直接聞いたことがなかったので、今、初めて愁の気持ちを知った。

「愁はどこか余裕があるイメージだったから、新鮮かも」

嫉妬するんだ。でも、どうして私なんだろう?彼女相手にではなく?

「余裕なんてねーよ。いつも必死だっつーの…」

不貞腐れて、いじけてる。
私だって余裕なんかない。誰だって余裕がないのだと、思い知った。

「そうだよね。ごめんね。勝手にそう思い込んじゃってて…」

「いや、幸奈が謝る必要はない。幸奈にはそういう目で映っていたんだなって、改めて知ることができて嬉しかった」

「そういう目って。私、どういう目をしてるの?」

「そりゃまぁ、今の話の流れ的に分かるだろう?」

話の流れで分かれば、こんなに苦労しない。
それが良い意味でなのか、或いは悪い意味でなのか、私にはよく分からなかった。

「ごめん。多分、分かってないと思う。
つまり、どういう意味?」

「はぁ。だからな、お前には余裕があるように見えていたんだなと思っただけだよ」

確かに私はそう思っていた。
だから、そのまま愁に伝えた。

「うん。確かにそう言ったよ?
やっぱり、気に障った?ごめんね?」

「それは大丈夫だ。全く気に障っていない。
お前にはいつも俺はそう見えていたんだなと、思っただけだ」

確かにそうだ。いつも余裕たっぷりな愁に、悔しいとさえ感じていた。
でも時々、余裕のない愁を見た時、一瞬だけ隙を見せてもらえたような気持ちになれて、それがたまらなく嬉しかった。

「愁がいつも大人びて見えたの。私よりも半歩先を歩いているように感じてたから。
もしかしたら私は、そんな愁が羨ましかったのかもしれない」
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