私が一番近かったのに…
堂々と愁の隣を歩ける、愁に見合う女性になりたいと、ずっとそう思っていた。

「そう見えるのは、俺が幸奈の前でカッコつけてたからだと思う」

まさか愁がカッコつけていたなんて、知らなかった。
ずっとカッコいい愁ばかりを見てきたので、それが当たり前だと思っていた。

「私にカッコよく見られたかったってことでしょ?
私は嬉しいよ。カッコつけてくれてたことが」

でも、本当は……。

「だけど、やっぱり素のままの愁でいてほしいかな。
私はその方が、もっと嬉しい」

好きな人に無理はさせたくない。
自分と一緒に居るのが、一番だと思ってほしいから。

「大丈夫だ。もうとっくに素でいるから。
余裕がなくなるのは、幸奈が可愛いせいだ」

結局、私のせいなの?あと、さり気なく可愛いなんて言うし…。
どんな反応をすればいいのか、困る。

「私のせいなの?」

「あぁ。これでも常に心配してるんだぞ。
突然、変な男に声をかけられて、簡単に付いて行ったりしないかな…とか」

なんだか娘に彼氏ができたのを嫌がる、お父さんみたいだ。

「大丈夫。私、ガード固いもん」

「幸奈のガードが固くても、可愛い女の子をつけ狙う男もいるんだからな。
気づいてないみたいだけど、幸奈のことを狙ってる男、結構いるんだぞ」

鈍感な私は、一切そんな気配を感じていなかった。
だって、声をかけられても用がない限り、上手く会話を続けることができないから。
そんな私が、まさかモテているなんて、思いもしなかった。
こうして改めて、男性側の話を聞くことで、自分にはたくさんのチャンスがあったのだと知ることができた。

「それ本当?バイト先の話?」

「バイト先でも大学でも。写真見せたら、誰この子?紹介してとか言われた。
ムカつくから、絶対に教えなかったけど」

ムカつくんだ。それって、まだ私のことを好き頃だった頃の話?それとも今?

「どうして、ムカついたの?」

「ソイツがチャラい男だったからだよ。
こんな男に幸奈はやらん!って思った」
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