私が一番近かったのに…
悪い男から守ってくれてたんだ。守られていたんだと知り、愛を感じた。
その愛がたとえ友情だと分かっていても、それでも嬉しかった。

「ありがとう。守ってくれて」

「いや、俺が勝手にやってただけだから。
それよりもほら、早く注文するぞ」

私の知らない愁の一面が、まだまだたくさんある。
こうして少しずつでも、私の知らない愁を知れば知るほど、もっと愁のことを知りたいと思ってしまう。

「そうだね。早く注文しないと…」

それ以降、この話題に触れることはなく、話題は再び観光地巡りの話へと戻った。
愁はどうやら下調べをしてきたらしく、行きたいお店リストを作成していた。
どうやら、この旅行を私以上に楽しみにしていたみたいだ。

「この店とこの店は絶対に行きたい。
あと、茶道が体験できるお店にも行きたい」

愁がお茶を好きなことを今、初めて知った。今までその片鱗を見たことがなかった。
いや、知ろうと思う気持ちすら、なかったのかもしれない。

「ねぇ、愁。私も行きたいお店があるの…」

そんな愁に感化され、私も事前に調べておいたお店へ、どうしても行きたくなってしまった。
最初は修学旅行以来の京都だから、久しぶりに見てみたいという、軽い気持ちだった。
こんなにも好きなものに必死な愁を見て、せっかくの旅行だし、私ももっとはしゃぎたいと思った。
愁のこの顔が私を突き動かした。いつだってそう。私の原動力は、愁そのものである。

「そうだな。俺も幸奈が行ってみたいお店に興味があるし、せっかくだから、幸奈の行きたいお店にも行こう」

好きな人が自分のためを思い、行動してくれることが嬉しい。
この旅行中、ずっと幸せだ。こんなにも幸せなことなんて、もう二度とないかもしれないと思うくらいに。
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