私が一番近かったのに…
「それじゃ、よろしくお願いします…」

それから暫くして、注文したお茶が運ばれてきた。
愁が開口一番に足を運んだこのお店のお茶は、とても美味しかった。
お茶好きにはとてもたまらないんだろうなというのが、表情から窺えた。

「俺らの街にも、いいお店ないかな」

きっと探せばあるのかもしれない。
あの街に住み、もうすぐ一年が経過しようとしているが、まだまだ知らないことだらけである。

「探してみたりはしたの?」

「実家の近所にはあったんだけど、今住んでいる街にはなかった」

だからこそ、今回の旅行にかなり気合いを入れていたのかもしれない。
美味しいお茶を待ち望んでいた、愁ならではの楽しみ方である。

「そうなんだ。ならさ、電車を使って、隣街へ行ってみるのはどう?」

「そっか。色んな場所へ行ってみたらよかったのか。
幸奈、ありがとう。その発想はなかった」

私だって今、愁がお茶を好きだと知り、驚いている。
でもそれ以上にもっと、好きな人が好きなもので笑顔になっている顔が見てみたいと思った。いつもの場所でも…。

「なら今度さ、隣町へ遊びに行かないか?
今までお互いの家を行き来しているだけだったからさ、たまにはどこかへ出かけてみるのはどうだ?」

まさか、愁の方から提案してくれるなんて思いもしなかった。
でも、いつもの場所で一緒に出かけても大丈夫なのだろうか。
万が一、彼女に目撃されたら、浮気がバレてしまう。
いつもなら慎重なはずなのに、今日は気分が良いせいか、若干浮かれていた。
この際、バレてしまってもいい。愁ともっと一緒に居られるのであれば…。
それに口約束ぐらいは許して欲しい。実現できるかどうかなんて、本当のところは分からないのだから。

「私でよければ、是非、ご一緒させてほしいです」
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