私が一番近かったのに…
彼女の存在が気にならないわけじゃない。ずっと心の中で引っかかっている。
一緒に行く相手は、彼女じゃなくて私でいいの?
…なんてことを頭の中で考えつつも、許されるのであれば、私はこれから先もずっと愁の傍に居たいと思っている。

「幸奈がいいんだ。だからよろしく頼む」

せっかく彼女のことは忘れて、二人きりを満喫しようと思っていたのに、ふと現実に引き戻されてしまった。
愁は終始笑顔だった。彼女のこと、気にならないのかな?
私が彼女だったら、誰とどこで何をしているのか気になるけどな…。

「それにしても、ここのお茶は美味しいな。幸奈もそう思うだろう?」

「う、うん。美味しいね」

ダメだ。一度意識し始めると、忘れることなんてできない。
忘れたいのに。忘れるためにここに来たのに…。

「幸奈?どうかしたのか?」

いつの間にか意識が逸れていた。愁が心配するくらいに…。

「ううん、何でもないの!落ち着く雰囲気のお店だから、ついぼーっとしちゃった」

ねぇ、あなたの気持ちは今、誰に向いてるの?
もし、彼女が一番好きだとしたら、このままでいいの?

「それならよかった。そろそろ次の場所へ行かないか?」

帰りたくない。明日になれば、この魔法が解けてしまう。
まるでシンデレラみたいだ。王子様と一緒に居られる時間に、制限があるから。

「うん、行こっか」

そう思うと途端に寂しさが込み上げてきた。私は思いきって、愁の腕にしがみついた。
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