私が一番近かったのに…
「どうした?何かあったのか?」

「何でもない。ただ、こうしてみたかっただけ」

寂しくなったなんて言えない。もっとあなたの温もりを感じていたかった。


           ◇


「愁、そんなに買うの?」

ってきり、またカフェにでも行くのかと思いきや、今度やってきたお店は、お茶屋さんだった。
数十種類以上、いや、もっとあるのかもしれない。
とにかく、たくさんの種類の茶葉があり、どうやら、目的はここにある茶葉を買いに来たみたいだ。
お店に来て早々、カゴの中にたくさんの茶葉の袋を入れている。
一人暮らしの愁には、飲みきれないほどの量を…。

「いいんだよ。俺にはこれがないと生きていけない…」

いや、さすがに生きてはいけると思う。
気持ちは分からなくもないのだが、さすがにこれは、呆れてしまうほどの量である。

「そうだ。幸奈ん家にストックを置いても構わないか?」

どんだけ買うつもりなの?
まさか、愁がここまでお茶好きとは思わなかった。

「置いてもいいけど、但し条件があります」

これなら、説得できるかもしれない。
いくら何でも多すぎる。家がお茶だらけは極力、避けたい。
いくら好きな人の頼みであっても、聞き入れられないこともある。
危機回避のためにも、相手を黙らせるしかない。

「条件って何…?」

「今、カゴの中に入っている物の中から、五つ以内に選ぶことができたら、家に置くことを考えてあげる」

ここまで追い詰められれば、さすがに引き下がるであろう。
愁にとっては、酷な話であると思うが…。

「分かった。幸奈ん家に置いてほしいし、一緒に飲みたいから頑張る」

思ったよりも素直な反応に正直、驚いた。
初めて愁を黙らせることができた。

「それじゃ、選ぶの頑張ってね」

私はただ頑張って選んでいる愁を、横目で眺めていた。
待っている間、お茶の良い匂いがした。この匂いを嗅いだことにより、愁がお茶にハマってしまった理由が、少しだけ分かったような気がした。
< 150 / 346 >

この作品をシェア

pagetop