私が一番近かったのに…
それでも、さすがにこの量は…ね。
自分の分も買おうか悩んでいたが、家にストックを置くと言う愁のために、私は買うのを止めた。

「お嬢さん、一口いかがですか?彼氏さんを待っている間に」

見兼ねてお店の方が声をかけてくれた。
お店の人からしたら、私達は恋人同士にしか見えない。
本当は違うが、私達の関係を説明するのはややこしいので、この場を丸く収めるために、恋人同士であるフリを続けた。

「いいんですか?是非!」

ただ待っているのも、退屈していたところだったので、丁度良いタイミングで声をかけてもらえた。
もしかしたら、つまらなさそうな顔をしていたのかもしれない。
そんな私に気を利かせて、声をかけて下さったのだとしたら、お店の方に感謝しないといけないなと思った。

「試飲してもらうのも、商売のうちの一つなので」

さすが商売上手だ。向こうの方が一枚上手であった。
こうやって飲んでもらい、買ってもらおうというわけか。
これはきっと、私にも買ってもらおうとしているのかもしれない。
お店の方には申し訳ないが、愁がたくさん買うため、私は遠慮させて頂きたい。

「お嬢さんの場合は、彼氏さんのために…ね?」

なるほど。そういうことか。なんとなく状況を察した。
お店側もいつまでも悩まれていては、困るということなのかもしれない。
誰がどう見ても、愁の買おうとしていた量は、明らかにおかしい。
私が飲み比べして、早く決めさせようということなのであろう。
それならば、私はお店の方に協力することにした。

「そうですね。そうさせて頂きます」
< 151 / 346 >

この作品をシェア

pagetop