私が一番近かったのに…
優しく微笑んでくれた。その笑顔に心が安心した。
こんなにも心から安心させられる笑顔があるなんて。
それはまるで、実家に帰省したかのような感覚だった。

「まずはこれをどうぞ」

お盆の上には、たくさんの紙コップが並べられており、どうやら数種類のお茶を用意してくれたみたいだ。

「すみません。ありがとうございます」

一つひとつ丁寧に淹れられたお茶。やっぱり香りが違う。
普段飲むお茶とは桁違い。いや寧ろ比べること自体が失礼だ。
口の中に含めば、すぐに味が広がっていき、この匂いと味をいつまでも味わっていたいと思ってしまうくらい、とても美味しい。

「美味しいです。これは何ていうお茶なんですか?」

「ほうじ茶ですよ。飲んだことがあるかと思います」

淹れ方一つでこんなにも味が変わるなんて、知らなかった。
まさか、お茶がここまで奥深いなんて、思わなかった。

「ってきり、今まで飲んだことがない、変わったお茶かと思ってました。
今まで飲んだことあるお茶が、ここまで違うなんて、知らなかったです」

度肝を抜かれるとはこのことであろう。プロの淹れるお茶が、ここまで違うなんて。
愁みたいに、もっと早くこの味を知っていたら、私も同じようにハマっていたかもしれないと思った。

「他に用意させて頂いているお茶も、きっと飲んだことがあるものかと思います。
まだまだありますので、ごゆっくり試飲してみてください」

お茶屋さんの思惑にまんまとハマってしまい、私はひとしきり、お茶を堪能してしまった。
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