私が一番近かったのに…
「悪い幸奈。遅れた」

愁が後から遅れてやってきた。
どうやら、ようやくお茶談義が終わったみたいだ。

「ううん。全然、大丈夫だよ。スマホで調べてみたら、私の行きたかったお店が、近くにあったみたいで。待っている間に、行っておこうかなと思って。
どうだった?店長さんとのお話は楽しかった?」

待っている間に、欲しい物を買うことができた。
京都で有名なあぶらとり紙のお店。中学の修学旅行の時に買い、これがあの有名な…と感動したのを、今でも覚えている。
せっかく京都へ訪れたので、また買えたらいいなと思い、立ち寄ってみた。

「とても有意義な時間だった。またお茶について、より詳しくなった」

嬉しそうな顔をしている。それだけお茶が好きみたいだ。
私の買い物は無事に終えたので、そろそろ次の場所へ移動しようかと考えていた。

「そっか。それならよかったよ。
私はもう買い物を済ませたから、次はどこに行く?」

「いいのか?俺ばっかり優先させてもらっても…」

私には他に行きたい場所がない。あとは買い忘れてしまったお土産を買うくらいだ。
寧ろ愁の方が、回りたいところがたくさんあるみたいなので、そちらを優先してほしい。
私はこのお店に来れただけで満足だから。

「大丈夫だよ。私はここに来れただけで満足だし。
愁は他に行きたい場所があるんでしょ?なら、そこに行こうよ」

手を掴まれた。突然のことでびっくりしたが、次の瞬間、愁の口が開いた。

「幸奈、ありがとう。もう少しだけ俺の我儘に付き合ってくれると助かる」

もちろん答えは一つ。私はすぐに返事をした。

「どこまででもお供させて頂きますよ」

愁の我儘だったら、いくらでも付き合える。

「それじゃ、行こう。次の場所へ」

愁の手が緊張で少し震えていた。
その行きたい場所って、緊張するような場所なの?
そう思うと、私も少し緊張してきた。
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