私が一番近かったのに…


           ◇


連れて来られた場所は、展望を見渡せる大きなタワーだった。
元旦ということもあり、人混みで溢れていた。

「実は俺、夜景が好きで。この景色を幸奈に見せたかったんだ」

確かにとても綺麗な夜景だ。いつまでも、ずっとここに居たいと思ってしまうほど、この夜景に吸い込まれていく。

「こんな綺麗な夜景が見れて、凄く嬉しい。
今日のために色々調べてくれて、本当にありがとう」

今日は本当に幸せだ。愁の好きなものを知れた上に、こんな綺麗な夜景を見ることができた。
私、こんなに幸せでいいのかな。こんなに幸せすぎると、もう帰りたくなくなっちゃう。ずっとここに居られたらいいのに……。

「幸奈に喜んでもらえて何より」

愁はデートプランを、しっかりと立てるタイプのようだ。
知らない土地に行くというのに、殆ど調べずに来た私も私だが…。
それを当たり前かのように、許してくれる愁の優しさが心に染みた。

「本当にありがとう。ずっとエスコートしてくれて」

どさくさに紛れて、腕に抱きついてみた。
嬉しさのあまり、咄嗟に身体が動いてしまった。

「ごめん。離れるね」

離れようとした瞬間、愁に腕を掴まれた。

「いい。無理に離そうとすんな」

再び腕を組み直した。このままずっと離れたくない。この時間が永遠に続けばいいのに…。

「言い忘れてたけど、あけましておめでとう。今年もよろしくな」

すっかり忘れていた。言ったつもりになっていた。
こんな綺麗な景色を見ながら言われてしまえば、目から涙が零れ落ちた。

「こちらこそ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくね」

大勢の人の前で泣いてしまったのは、情けないなと思う。愁に迷惑をかけてしまったから。
それでも、嬉し涙は止められなかった。
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