私が一番近かったのに…
「もう泣くなよ。泣くほど嬉しかったのか?」

首を縦に頷いた。嬉しいに決まってる。それ以外、有り得ない。
ここまでされたら、もっと好きになってしまう。

「よかった。幸奈なら絶対に喜んでくれると信じてた。
実際、喜んでくれて、俺も嬉しい。こちらこそ、ありがとう」

愁からお礼を言われてしまった。
変な感じだ。どうして、サプライズをしてくれた方が、お礼を言うのだろうか。
お互いにお礼を言い合う姿に、可笑しくなってしまい、二人して微笑んだ。

「愁はお礼を言わなくてもいいんだよ。
お礼を言うのは私の方なんだから。本当にありがとう」

「いや、違うんだ。幸奈は今日、俺の我儘に全部、付き合ってくれた。本当に感謝しても、しきれない」

すっかり忘れていたが、私は今日一日中、愁の我儘に付き合った。
楽しかったな。お茶屋さんの方も素敵な方で。新たな愁の一面を知れた。
そう思うと、私がお礼を言われるのも納得できた。

「そのことは気にしないで。愁が楽しそうにしている姿を見れて、私も楽しかったよ」

「幸奈は本当に優しいな。
俺、幸奈と京都に来れてよかったと思ってる」

それは私も同じ気持ちで。愁と京都に来れて良かったと思ってる。

「うん。私も。愁と一緒に来れてよかった。またいつか来たいね」

何気ない一言だった。思わず心の声が漏れてしまった。
もう取り返しがつかない。愁の口から次の言葉を聞くのが怖い。
でも、早く次の言葉を聞きたくもあった。

「俺も。幸奈とまた一緒に来たいな。
京都だけじゃなくて、もっと色んな場所へ、一緒に行きたい」

愁の口から、また一緒に行きたいなんて聞けるとは思ってもみなかった。
このまま帰らずに、どこかへ行ってしまいたい気持ちだ。

「そうだね。京都だけじゃなくて、もっと色んな場所へ行ってみたいね。
例えば、箱根とかどう?温泉でゆっくりするのもよくない?」

「それも悪くないな。俺は遊園地にも行ってみたいな」
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