私が一番近かったのに…
そっと肩を抱き寄せてくれた。さっきよりも密着した写真が撮れた。
ドキドキもしたし、あまりの嬉しさに心が熱くなった。

「こんな感じに撮れたが、どうだ?」

私に携帯を渡して見せてくれた。写真の中の私は、心模様をそのまま描いたみたいな表情をしていた。
嬉しいけれども、どこか恥ずかしくて照れている。そんな幸せそうな顔だった。

「綺麗…。愁って写真撮るの上手だね」

「ありがとう。照れるな。たまに写真を撮ったりしてるんだ。
だから、褒められるとすごく嬉しい」

また新たな一面を知った。お茶とカメラが趣味だと。
今までずっと傍に居たのに、全く愁のことを知らなかったのだと、実感させられた。
彼女に愁を奪られたことに必死で、愁自身のことを知ろうとしていなかった。
今まで私は、冷静になることができなくて。愁のことを知ろうとする余裕がなかったのかもしれない。
今、余裕があるのも、きっと彼女という存在を意識しないでいられることが、精神的に安定することができる大きな要因になっているのかもしれない。

「本当に上手だから、思わず心の声がそのまま出ちゃった。
また写真撮ってほしいな。愁の撮る写真が好きだから」

もっとあなたのことを知りたい。あなたの気持ちだけじゃなくて、あなたの中身を。
どんな愁でもいい。もっと色んな顔を見てみたい。

「分かった。約束な?次もまた色んな所へ行くって」

指切りを交わした。小指と小指が交差する瞬間、触れる肌が心地よくて、今すぐにでも手を繋ぎたいと思った。

「うん。約束。約束破ったら、愁にお仕置きしちゃうからね」

半分、冗談のつもりだった。約束なんていつも口約束ぐらいにしか考えていないから。
でも、いつも愁は本気で考えてくれる。そんな愁が約束を守らないわけがない。
もしかしたら、本当はそう言ってほしかったのかもしれない。ちゃんと約束は守るよ…と。
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