私が一番近かったのに…
「お仕置きか。キツいことは止めてくれよ?」

そう返されるとは思ってもみなかった。
お仕置きを受け入れる。つまりそれは、約束を守れないこともあるよと言われているみたいで、とても悲しい気持ちになった。
愁はそんなつもりで言ったわけじゃないんだと思う。私の冗談に乗ってくれただけに過ぎない。
何度もそう信じようとしたが、それでも心の中は、ずっとザワザワしていた。

「どうしようかな?愁にとって、どんなお仕置きが一番キツいの?」

「俺に聞くのかよ?そして、一番キツいのかよ」

もし、本当に約束を破られたりでもしたら、お仕置きどころの話ではない。
私の心が限界に達し、もう愁の傍に居られなくなってしまう。
もし、そんな時が訪れたら、いよいよ愁の傍を離れる時なのかもしれない。

「だってお仕置きだもん。聞いておかないと、ね?」

聞いたところで、お仕置きが実行されるかどうかは分からない。
純粋に興味があった。どんなことに弱いのか、知りたくなった。

「んー、そうだな。俺、擽りには弱いかな」

意外だった。私の中では逆に擽りに強いというイメージがあった。
まさかの回答に、思わず驚きを隠せなかった。

「擽りなんだ。へー……」

「その、へーが怖いんですが。
幸奈さん、もしかして、何か企んでます?」

今度、不意打ちにやってみたら、どんな反応を示すのか、試してみたくなった。
今すぐにでも、実行したい衝動に駆られながらも、今は我慢した。

「別に何も企んでなんかいないよ?
意外だなって思っただけ」

可愛いと思った。男の人に可愛いは、褒め言葉ではないのかもしれないが。
意表をつかれたことに胸が打たれ、愛おしさが込み上げてきた。

「俺が擽りに弱いのって、そんなに意外か?」

いつも余裕そうに見える愁が、私の中では既に出来上がっていた。
だからこそ、擽りに弱いという一面が、想像できなかったのかもしれない。

「頭の中では、擽られても俺は平気ですよっていう、イメージが勝手にあったのかもね。
だから正直、驚いた。そんなイメージが全くなかったから」
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