私が一番近かったのに…
他人が決める勝手なイメージなほど、怖いものはない。
それでも、私の中の愁のイメージは、自信に満ち溢れてる人というイメージが強い。
本当は違うんだろうけども。私はいつの間にか、勝手に決めつけていたのかもしれない。愁にそうであってほしいと…。

「隠してたわけではないが、擽られるタイミングがなかったから、今までバレずに済んだのかもしれないな」

そもそも私の頭の中に、擽るという発想がなかった。
皆、そんなに擽るものなのだろうか。今まで人にされたことも、そんなにないかもしれない。
それに自ら弱いと発言しているので、なるべく擽りをしない方がいいのかもしれない。
でも、いつかしてみたいと、密かにタイミングを窺っているのであった。

「幸奈には余裕があるように見えていたのかもしれないけど、俺にはいつも余裕なんてなかった。
今でも時々、余裕がない時がある。俺って本当は、そんな男だぞ」

私はどんな愁でも愛おしい。受け入れる覚悟がある。
こんな関係であったとしても、私の好きという気持ちは変わらない。

「愁は愁だよ。余裕がない愁も、愛おしいって思うよ」

改まって告白したみたいな形になってしまった。
今更、訂正するのももう遅い。どんな受け止め方をされても、気にしないことにした。

「よかった。イメージと違って、嫌だと思われたら、どうしようかと思った。
幸奈は絶対にそんなことは言わないと信じてたけど、いざこうなると不安だよな」

人の気持ちを知ろうとすることは、それだけ勇気のいること。
誰しも不安になるものだ。私だって、常に不安に苛まれている。

「幸奈のそういう気持ちが俺は嬉しいんだ。ありがとうな」

私の想いは、愁の心の支えになった程度に過ぎない。
今はそれでいい。そういう意味合いで伝えたのだから。
でも、胸が苦しかった。愁にとってはその程度なのかと、卑屈に考えてしまう自分もいた。
そんな自分を早く消し去りたいのに、なかなか消せない。心の奥深くに黒い水溜りが、溜まっていくような感覚がした。
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