私が一番近かったのに…
「それならよかった。ちゃんと愁に届いたみたいで」

「あぁ。いつでも幸奈の気持ちは充分、伝わってるよ。いつもありがとうな」

愁のいう気持ちって、きっと優しさとか感謝の気持ちとか、そういった類いのものだと思う。
でも、私の気持ちは違う。いつだって、愁を想っている。他には何もいらないくらいに。

「本当に?それならよかった」

好きって気持ちは、永遠に届かないのかもしれない。
きっと愁は、言葉にしても私の気持ちには、応えてくれないと思う。彼女を選ぶに違いない。
だからこそ愁に、私の気持ちを分かったような顔をされると余計に傷つく。
どうせ付き合ってくれないくせに。変な期待を持たせないでほしい。

「本当だよ。俺は嘘をつかないから」

嘘つきだよ。身体では応えてくれても、気持ちでは応えてくれないじゃん。

「うん。そうだね…」

この恋はずっと一方通行なんだ。交わることは、一生ないのかもしれない。
この旅行が終わりに差し掛かってきているせいか、自分の気持ちも段々と暗くなってきた。
彼女の存在が気にならなかったのに、今は幸せだと思えたのに。
どうして、一番肝心な気持ちだけは交わらないのだろうか。
どんなに甘い言葉を囁いてくれても、私を好きにはなってくれない。
こうなることは、最初から分かっていたはずなのに。
愁にとって私は、本当にただの友達でしかないのだと思い知らされた。

「お前、信じてないって顔してるぞ?
俺は本当だからな。幸奈には絶対に嘘なんてつかないからな」

だって、私には嘘をつく必要がないからだ。
私のせいで、彼女には嘘をつかせているわけだが…。

「愁が嘘をつくのが、苦手な性格なのは分かってるから大丈夫。
信じてないわけじゃないの。ただ、何て言ったらいいのか分からないだけ」

私の方がよっぽど嘘つきだ。肝心な時に尻尾を巻いて、本音を言わないのだから。

「そっか。それならよかった」
< 165 / 346 >

この作品をシェア

pagetop