私が一番近かったのに…
優しい笑顔を私に向けてくれた。いつの間にか、抱き寄せられていた肩も離れていた。
またくっつきたい。その想いが通じたのか、愁が正面から抱きしめてくれた。

「よかった。信用されてないんじゃないかって不安で…」

少し声が震えていた。私の言葉一つひとつが、愁の中で大きな意味があるのだと実感させられた。
本当に分かっていなかったのは、私の方なのかもしれない。想いはいつも愁へ届いていたのかもしれない。
今だってそう。抱きしめてほしいと思った時に、愁は抱きしめてくれる。
私の想いは届いてるって言葉は、あながち間違えではなかったのだと思い知った。
だとしたら、私の心の奥底に溢れ出ている想いにも、本当は気づいていて、わざと気づかないフリをしてくれているのかもしれない。

「そんなわけないでしょう?愁のことは信用してるよ。ごめんね、私の言葉が足りなくて…」

背中に腕を回した。優しく背中を撫でるように、手で(さす)った。

「私は信用してるからこそ、シンプルに伝えたかったの。
それが愁を不安にさせてしまったのならごめんね。ただ、私の中で愁はずっと…」

大好き…。この想いを今、口にしたらどうなるのだろうか。全て終わってしまうのかな。
怖い。でも、いつかまたちゃんと告げなくてはならない。その時はこの想いが叶うと信じて……。

「愁が想ってくれているのと同じくらい、私の中で愁は大切な存在だよ」

今はこれだけでいい。いつかちゃんと好きって伝えるから。それまで傍に居させてほしい。
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