私が一番近かったのに…
「俺も幸奈は特別だ。大切すぎて誰にも触れさせたくない。どこかに閉じ込めておきたいくらいに…」

私達はいつも近くにいるのに、どうして恋人同士になることができないのだろうか。
恋人として、上手くやっていけないってことなのかな?今の関係のままの方がいいのかな?

「ありがとう。そこまで大切に想ってもらえて、私は幸せ者だなって思ったよ」

ずっとこのままでいられたらいいのに。私を離さないでほしい…。

「ダメだ。もう我慢できない……」

抱きしめる力が強くなった。今、愁は私が欲しくて欲しくて、堪らないんだ。
本音を言えば、まだ帰りなくない。この魔法が解けないでほしいから。
まだここに居たい。あなたとずっと一緒に居たい。
でも、あなたに抱かれたい。あなたの熱に溺れたいと思う自分もいた。

「早く帰ろう。ホテルに。朝まで抱かせて?」

「好きなだけ私を抱いてください」

わざと耳元で甘く囁いた。愁をドキッとさせるために。

「煽った分、激しくなるのは覚悟しておけよ?」

もちろん、最初からそのつもりだ。分かった上で、わざとやっている。愁にとっては酷な話だが。

「愁も私の本気、覚悟しておいてね」

「分かった。覚悟しておく」

抱き合っていた身体は一旦離れ、手を繋いだ。
私の手を握る愁の力は強く、またいつもより歩くスピードは速かった。
不思議と速いとは感じなかった。自然と歩くスピードを合わせられた。
きっと私も我慢できなかったんだと思う。早くホテルへと帰りたかった。

「幸奈、ホテルに着いたら、すぐにしてもいいか?一分一秒でも無駄にしたくない」

相当、痺れを切らしているみたいだ。
でも大丈夫。それは私も同じだから。

「うん。分かった」

これ以上、煽る言葉は言えなかった。
次第にお互いの口数は減っていき、ホテルまでの道のりは無口だった。
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