私が一番近かったのに…
隣で気持ちよさそうに眠る愁の唇に、そっと指で触れてみた。なぞるように何度も…。

「…好き」

寝ている時ぐらい言わせて。これぐらいなら、許されるはず。
気持ちが溢れて止まらなかった。何度もキスしたくなり、思い止まった。
ここはまだバスの中。人目が気になる。そんなことできるはずがなかった。
この時間が拷問のように感じた。自分の理性を試されているかのようで、早く地元に着いてほしいと願った。

そのまま私も眠りに落ち、気がついたらもう着いていた。
楽しかった京都旅行もあっという間に終わり、いつもの日常へと帰ってきた。
私の中で何かが大きく変わるかもしれないと、旅行に行く前はそんなことを考えていた。

実際のところ、何も変わることはなかった。ただあなたの傍に居たいという気持ちが、より強くなった。
旅行が終わったばかりだからかもしれない。まだいつもの日常には、戻りたくなかった。
こんなにずっと一緒に居ることが初めてで。
だからこそ、一緒に居られる時間が減るのかと思うと、とても寂しく感じた。
この時の私は、もう二度と愁に会えなくなるのではないかと、不安で胸がいっぱいだった。
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