私が一番近かったのに…
先輩に声をかけられても、あっけらかんとしている。
そうだよね…。私の気持ちなんて分からないよね。

「へー。そうなんだ。それよりもさ、岩城。最近、可愛い彼女が遊びに来ないけど、もう別れたのか?」

先輩がデリケートな問題に、ズケズケと踏み込んだ。
皆がなかなか聞けずにいたことを、こんなにも簡単に踏み込んでしまうなんて。
空気が読めないというか、周りを気にしない人なんだなと思った。

「まだ別れてませんよ。バイト先に遊びに来るのは、そろそろ他の人の迷惑になるから、止めてくれってお願いしたんですよ。だから、バイトがない日にたくさん会ってます」

最初から分かっていたはずだ。別れるわけないと。
私の知らない間に、二人の距離は縮まっていたみたいだ。
自業自得だ。今まで愁を避けてきたのだから。
私との旅行なんて、昔の思い出になっているのだと思うと、胸が張り裂けそうになった。

「なんだ。心配して損したわ。それにしても、何気に長いよな?それだけ真剣なんだな」

先輩はきっと、私達の関係を知らない。もちろん、私の気持ちも…。
無知は時にナイフだ。私の心に深く突き刺さった。
この場から立ち去りたい。居た堪れない気持ちに苛まれる。
もう嫌だ。今すぐ嫌いになれたら楽なのに…。

「正直、今は真剣なのか分からなくなってますかね。今の彼女とは、もうダメかなと思ってるので」

え?ダメってどういうこと?まだ別れていないのに?

「それって、何か不満でもあるのか?」

先輩は興味津々だった。私は興味のないフリをしながら、会話を聞き続けた。
< 173 / 346 >

この作品をシェア

pagetop