私が一番近かったのに…

「不満というか、彼女の気持ちと俺の気持ちが、すれ違ってるんですよね。一方通行みたいな感じです」

愁なりの悲痛な想いだった。
その想いが自分と重なり、少し胸が痛くなった。

「すれ違ったら、もうお終いだよな。
なかなかそこから、修復するのは難しいよな」

私と愁もそうだ。ずっと私の片想いだ。

「そうっすね。正直、バイト先に来るのも重いというか、来られてもコンビニなんで、困るんですよね。
買う物があって、来てくれるなら嬉しいんですけど…」

「確かに。それは重いわ。大平さんはどう思う？」

すっかり自分の存在を忘れられているかと思いきや、先輩から話を振られ、慌てふためく。
何て答えるのが正解なのだろうか。あまり彼女の悪口は言いたくない。私の印象を悪いイメージにしたくないから。

「えっと…私は、そういうのよく分からないです。
そういうのって正直、男性からしたら重いんですか？」

「正直、男からしたら重いかな。監視されてるみたいで、仕事がやりづらい」

逆の立場に置き換えてみた。彼氏が毎日、用もなくバイト先にやって来ては、お喋りだけをする。そして、何も買わずに帰っていく。
確かに迷惑かもしれない。会いたいという気持ちは嬉しいが、それがほぼ毎日と考えたら、愁の気持ちが手に取るように分かる。
たとえどんなに好きな人でも、相手への思いやりや配慮は必要だ。自分の気持ちばかり押しつけるのはよくない。

「確かにお仕事も上手くやれそうにないですね。そう考えると重いかもです」

私がもし、愁と付き合っていたら、毎日は行かないと思う。
店の前を通り過ぎるまではしたとしても、店内に入るのは躊躇う。
とはいっても近所なので、利用頻度は高いと思うが…。
それでも知り合いや身内がいたら、少し行く回数を減らす。相手へのプレッシャーになり兼ねないからである。
愁が彼女のことを大切に想っていることは、間違いない。
その想いや優しさに、彼女は甘えすぎてしまった。それが良くなかったのかもしれない。

「大平さんって、男の気持ち分かるんだね。
すげーいい子じゃん。めちゃ尽くしてくれそう」

先輩が、私の頭に触れようと手を伸ばそうとした瞬間、愁が先輩の手を遮った。