私が一番近かったのに…
「私、先に出るね。濡れた服を洗濯したいから」

そう告げて、その場から逃げ去った。今日の愁は怖い。あの優しい愁は一体、どこへいってしまったのだろうか。
あの頃にはもう戻れないのだと知った。私はただ、最後の夜だからこそ、良い思い出として終わらせたかっただけなのに…。
泣きながら洗濯機を回した。まだ髪は濡れたままで。ドライヤーで髪を乾かすのも気が引けるし、かといって、中に戻れそうな雰囲気ではない。
あんなに優しかった愁が、ここまで怒りを露にすることは滅多になかった。
ここまで愁を怒らせてしまったのは、私のせいだ。今はまだ罪悪感で胸がいっぱいだ。

「ひっく…、うぅ、」

泣いたって仕方がない。取り返しのつかないことをしてしまったのだから。
私に泣く権利なんてない。これは愁を苦しめた罰だ。

「ごめん、幸奈」

お風呂の扉が開く音がした。
次の瞬間、後ろから愁に抱きしめられた。

「泣かせるつもりなんてなかったんだ。感情的になってごめん。もう二度とこんなことはしないって約束する」

優しく抱きしめられた。どんなに約束をしても、これが最後だ。
それでも、ときめいてしまう自分の胸が苦しい。

「もう大丈夫。泣かないから安心して」

愁の腕をトントンと優しく指で叩く。私なりに離してという合図を送った。
合図と共に、愁の腕が優しく離れていく。名残惜しいとさえ思ってしまったが、ここはグッと堪えた。

「分かった」

愁の手を優しく掴む。あなたの手の感触を忘れないように、覚えておこう。
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