私が一番近かったのに…
「それにこれが最後だから、約束したって意味がないよ。
でも、愁の気持ちが嬉しかった。ありがとう」

いつでも私のために優しくしてくれた愁を、知らないうちにたくさん傷つけていたと思う。
謝っても謝りきれないほど、彼をたくさん傷つけてしまった。
それでも、感謝の気持ちをちゃんと伝えたかった。
最後だからといって、湿っぽい雰囲気にしたくなくて。いつもみたいに他愛のない話をして終わらせたかった。

「それもそうだな。つい、いつもの癖で」

愁は必ずいつも約束をする。いつの間にか、それが当たり前になっていた。
今日だって本当は、告白していたらそうなっていたかもしれない。
なんて、もうそんなことを考えても遅いが…。

「そんなに気にしないで。嬉しかったよ。ありがとう」

精一杯の笑顔を作った。決して綺麗な笑顔ではなかったと思う。
笑顔を作るのでさえも上手くできないほど、今の私の心模様は穏やかではなかった。

「ねぇ、愁。せっかく最後だから、今夜は愁をじっくり感じたい」

洗濯機の中に、全ての服を洗いに出してしまったため、今は何も身に纏っていない。
そんな姿の私が、まだ濡れた服を着たままの愁に抱きついた。

「おい、幸奈。俺はさっきお前に酷いことをした男だぞ?俺が怖くないのか?」

確かにさっきまでは怖かった。
でも今は全く怖くない。いつもの愁と同じで、どこか落ち着く。

「怖くないよ。こうしていると落ち着くの。あなたが私の傍にいるから…」
< 259 / 346 >

この作品をシェア

pagetop