私が一番近かったのに…
自分でも何でこんなことを言ってしまったのだろうかと、少し後悔した。終わらせようとしている人の言葉ではなかった。
それでも、自分の気持ちを抑えることはできなかった。
寧ろ最後だからこそ、もう自分の気持ちに歯止めをかける必要なんてなかった。
ならいっそのこと、そのまま想いを伝えてしまっても構わなかった。

「俺も幸奈が傍にいると、落ち着くよ」

濡れた服を着たまま、愁は私を抱きしめてくれた。
愁に包み込まれると、幸せな気持ちで胸がいっぱいに膨らみ、たったそれだけのことで、不安はどこかへ消えてしまった。

「ゆっくり優しく抱くから、ベッドに行こ?」

首を縦に頷き、そのまま手を繋いで寝室まで一緒に歩いた。この時間が一番ドキドキした。

「幸奈、こっちへおいで」

寝室の扉を開け、中に入ると、愁が手招きしてくれた。私は愁の横に立った。

「よっこいしょ…っと」

すると愁は、私をお姫様抱っこし、優しくベッドに寝かせてくれた。

「やっぱり幸奈って軽いな。ちゃんと飯を食ってるのか心配だ」

「そんなことないよ。私、結構食べるよ。それに軽くなんかないよ」

「充分軽いよ。ちゃんと飯食えよ」

なんて他愛のない話をしながら、頭を優しく撫でてくれた。愁に頭を撫でられるのが、いつの間にか好きになっていた。
私からキスをした。愁のおでこに。あなたに想いを伝えるために。

「早く愁がほしい…」

「俺も幸奈がほしい。もう、我慢できない…」

合図と共に、二人の最後の夜が開始した。
愁は着ていた服を適当に脱ぎ、お互いに裸となり、目と目で見つめ合った。
恥ずかしさで目を背けてしまいそうになったが、今日は真っ直ぐに見つめた。
目だけではなく、唇も自然に重なり合った。

「いいよ。我慢しないで。もうきて…」

「分かった。もう我慢しない。幸奈、」

私の名を切なげに呼び、愁は私を優しく抱いた。
今日のことを絶対に忘れない。愁が感情を剥き出しにしてくれたこと。泣いてる私に優しくしてくれたこと。いつも私のことを思ってくれていたこと。
お願い。あなたも今日のことを忘れないで……。
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