私が一番近かったのに…


          ◇


「ごめん。やっぱり幸奈としてると、理性なんて忘れちまう。もう一回したい。してもいいか…?」

申し訳なさそうな顔をしていた。そんな顔をさせたかったわけじゃないのに…。
辛そうな顔をしているのを見るのが苦しくて、今すぐにでもこの場から飛び出してしまいたい気持ちを、グッと堪えた。

「いいんだよ。我慢しないで。さっきみたいな怖い愁は、もう懲り懲りだけど。
でも、今は違う。いつもみたいに優しいあなたになら、私は何をされても嬉しいよ」

愁にこれ以上、自分のことを責めないでほしかった。この関係を始めたのも、勝手に終わらせようとしたのも私だ。
この責任は全て私が背負う。だからあなたには、いつものままのあなたでいてほしかった。

「お前はそれでいいのか?幸奈は俺にどうしてほしいんだ?」

私の答えはただひとつ…。

「いつもみたいに笑っていてほしい。あなたが好きだから」

絶妙なタイミングで、気持ちを伝えてしまった。
今更、この気持ちに答えてはくれないだろうし、もう最後だから、タイミングを気にする必要なんてなかった。

「ありがとうな。いつも励ましてくれて。幸奈の優しさに、俺はこれまでたくさん救われてきたんだ」

伝わるわけがなかった。前々から思っていたが、人のことを鈍感だとバカにしてくるけど、愁の方がよっぽど鈍感だと思う。

「はぁ…。やっぱりさっきの発言は取り消そうかな」

「え?どうしてだよ?俺、何かしたか?」

乙女心というものは一生、男性には伝わらないものだと思い知った。
そして、逆も然り。男心も一生分からないものだと知った。
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