私が一番近かったのに…
「別に何も。それよりも、続きをしよ」

時間が足りない。あなたと過ごすこの貴重な時間を、一分一秒でも無駄にはしたくなかった。

「それよりもって。まぁ、続きをしますか」

それから、果てるまで求め合った。途中から記憶がない。それぐらい、無我夢中だった。
こうやって、一緒に眠るのも最後だと思うと、名残惜しかった。
まだ眠りたくない。眠ってしまえば、魔法が解けて、全てリセットされてしまう。
それでも疲れた身体には、自然と眠りが訪れてしまい、私はいつしか眠りに落ちていた。


           ◇


愁より先に目が覚めた。昨日の疲れが溜まっているせいか、愁はまだぐっすりと眠っている。
彼が眠っている隙に、私は準備を始めた。大きめな鞄に荷物を詰め込み、家を出た。
携帯で時間を確認すると、もう始発が出ている時間だった。
一応、財布だけではと思い、キャッシュカードも持ってきたので、途中でお金に困る心配もない。
とりあえず、どこか遠くへ行ってみたくなったので、電子マネーを少し多めにチャージした。
これでどこまで行けるかなんて分からないが、行く当てのない旅を始めた。
改札を潜り、歩き始める。駅のホームへ着くと、行き交う電車に、朝早くから乗り込む人達で賑わっていた。
いつもの景色が少し違って見えた。これも心境の変化かもしれない。今まで感じられなかったものが、心に深く突き刺さった。

「まもなく、〇〇線に電車がやってきます。ご注意ください」

聞き慣れたアナウンス。いつもなら、この声でさえもスルーしてしまうのに、今日はやたらと大きく耳に入ってきた。
電車が到着し、乗り込む。行先は特に決めていないので、この列車がどこへ向かっているのかは知らない。
一人傷心旅なので、どこでも構わなかった。今まで我慢してきた分、今日くらいは開放的になっても、バチは当たらないはず。
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