私が一番近かったのに…
憧れていた大学に合格し、新生活も不安の中、無事に友達もできて、難なくアルバイトも決まり、何一つ不自由なく暮らしてきた。
そんな私がたった一つだけ上手くいかなかったのは、恋愛だ。
何をやっても上手くいかず、空回りばかりしていた。
改めて思い返してみても、どれも良い思い出ばかりではない。
それでも、恋をして良かったと思う。
この恋を忘れるための一歩を踏み出してみた。どうなるかは分からないが、良い旅にしたい。
とりあえず、友達には、“体調が良くないから大学を休む”…とだけ連絡をしておいた。
それから数時間後に、“お大事に”とだけ返信がきた。
その後、店長へ電話をかけた。アルバイトを本日限りで辞めたいと、無茶なお願いをした。
もちろん、普通なら許されないことだ。身勝手にも程がある。
それでも、店長は私の無茶なお願いを受け入れてくれた。

「本音を言えば、大平さんには辞めてほしくないんだ。真面目に働いてくれて、お仕事もできるし。
でも、言えない事情があるんだよね?これまで休まずに、真面目に働いてくれてた大平さんが、こんな我儘を言うんだから、申し出を受けいれます」

「本当にすみません。私の身勝手な理由で、迷惑をかけてしまって…」

「構わないさ。若いうちはたくさんの経験を積んでほしいからね。
今までお疲れ様でした。でももし、気が変わったら、いつでも待ってるから。遊びに来てね」

最後まで優しい人だった。店長の優しさに心が少し救われた。
店長がいたから、ここまでアルバイトを頑張ってこれたのかもしれない。
店長には感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。こんな私を雇って、働かせてもらえたことに。

店長との電話を終えた後、暫く携帯の電源は切っておくことにした。
まだ愁からの連絡はなかった。連絡がくるのを期待していたわけではないが。
もしかしたら、まだ眠っているのかもしれないと、何度も自分にそう言い聞かせた。
元々、ここまで大袈裟なことをしようとは思ってもみなかった。
いざこうなってみて、あまりの気まずさに飛び出してしまった。自分で決めたこととはいえ、終わってしまうことに耐えられなかった。
その悲しみから、こうした行動に出てしまった。朝、目が覚めて隣に私がいないことに、愁は戸惑ってくれるだろうか。
< 263 / 346 >

この作品をシェア

pagetop