私が一番近かったのに…
ふと、携帯電話の電源を切っていたことを思い出し、慌てて電源を入れてみた。
電源が付くと、たくさんのメッセージが届いていた。
その殆どは大学のお友達からで、学校を休んだことを心配してくれていた。
そして、アルバイト先のお友達からも、メッセージが届いていた。
急にアルバイトを辞めることになったので、心配してメッセージを送ってくれたみたいだ。
中でも私が目についたのは、中山くんからのメッセージだった。

“大平さん、バイト辞めたんだってね。大丈夫?”

そして、もう一件メッセージが届いていた。

“話したいことがあります。連絡をください”

中山くんがわざわざ私に連絡をしてきたということは、何か愁のことで話したいことがあるのかもしれない。
でも、今の私には、愁の話が聞ける程の心の余裕なんてない。
なので、大学の友達にだけ返信をし、アルバイト先でできた友達には誰にも返さなかった。
中山くんにだけ返さないというのは、私自身が嫌だった。
せっかく、親切心で連絡してきてくれた気持ちを、無下にすることはできなかった。


           ◇


暫くの間、塞ぎ込んでしまい、自宅に引き篭っていた。
誰の連絡にも返事をする気力すらなく、数日間、大学をお休みした。
暫く休んでいたら、このまま何もしないのは良くないと思い立ち、突然、ふらっと大学へ赴いた。

友達に、「何かあったの?大丈夫?」なんて、心配された。
自分では、そんなに心配されるほどのことではないと思っていた。
時間の感覚があまりなく、どうやら私は、あの日に取り残されてしまったみたいだ。
愁を失った痛みがあまりにも大きすぎて、自分の中でまだ上手く消化できていなかった。
前に進むと決めたくせに、相変わらず、くよくよしてばかりいた。

「ねぇ、幸奈、気晴らしに合コンに参加してみない?」

今までずっと私は合コンを避けてきた。
愁とはセフレという関係ではあったが、愁以外を好きになることが想像できなくて、あまり気乗りがしなかった。
でも、今の私には何の柵もない。いっそのこと、愁を忘れられるチャンスだ。これは行ってみるしかない。

「たまには、参加してみようかな」

「誘った手前、こんなことを言うのはおかしな話だけど、本当に来るの?
気持ちは嬉しいけど、まさか幸奈が本当に参加するなんて思ってもみなかったから驚いたよ」

自分でも自分に驚いた。まさか自分が合コンに参加する日が訪れるとは…。
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