私が一番近かったのに…
「幸奈、一緒に帰ろうぜ」

私に対する愁の態度は、相変わらずだった。
愁が今、何を考えているのか分からなかった。

「うん、いいよ」

一度誘いを断ってしまえば、愁は私の傍から離れていってしまうのではないかと思うと怖い。
それでもまだ私は、ずっと愁の傍に居たいと思った。
私って身勝手だ。我儘にも程がある。そんな自分が許せなかった。

愁は今、私のことをどう思っているのだろうか?少しでも私のことを女性として意識してくれているのだろうか。
思えば、たくさん愁と一緒に過ごしてきた。一緒に帰ったり、花火大会に行ったり、家に泊まったり…。
私の心の中はずっとモヤモヤしていた。上手く切り替えようとしても、アルバイト中ずっと楽しそうに話す愁の顔が忘れられなかった。

私じゃ無理なのかな…?ダメだ。考えたって無駄だ。寧ろ今がチャンスなのかもしれない。
それなのに、まだ勇気が持てずにいた。今思えばこの時、一歩を踏み出せていたら、何か変わっていたのかもしれない。今更、もう遅いが…。

「今日のバイトはきつかったな…」

他愛のない会話から始まった。ザラザラした心の中を隠しながら、調子を合わせて話す。そんな自分が嫌いだ。

「きつかった。本当に疲れた…」

本当に言いたいことは言えないくせに、くだらない話ならいくらでも話せてしまう。

「今日もまた女子高生、来てたな…」

愁の方から核心に触れてきた。心臓を鷲掴みにでもされたかのように、息をすることさえできない感覚に陥った。

「そう…だね。とか言いながら、楽しそうに話してたじゃん」

嫌味な言い方をしてしまった。本当は話してほしくないって言いたいのに…。

「何?妬いてるの?幸奈、俺のこと好きなの?」

絶対にからかわれてる。私には愁のその態度が、自分の気持ちを踏み躙られたかのように感じてしまい、それがどうしても許せなかった。
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