私が一番近かったのに…
「じゃあさ、幸奈ちゃんに決めてもらおうよ。この中で誰がいい?」

私は真っ直ぐに彼のことを見つめた。
しかし、彼は私のことなど見てくれなかった。
それでも、私は彼を指名した。

「蒼空さんが…いいです」

私が名前を呼んだことで、初めてこちらを見てくれた。それが少し嬉しかった。

「ちぇ、蒼空かよ。つまんねーの。じゃ、俺は別の子でいいや」

自分が選ばれなかったことにより、あからさまに態度が急変した。
それって、他の女の子達に対して、とても失礼な態度だと思う。
あまりにも無礼な態度に、一言文句でも言ってやろうかと思った矢先に、私よりも先に立ち上がる人物がいた。

「あのさ、俺は呼ばれてここに来ただけだ。
でもさ、お前らは本気で合コンをしに来たんだよな?だったら、その態度はないだろう」

彼の言ってることは正しかった。
蒼空さんは一見、無愛想に見えるが、心根は優しい人なのかもしれないと思った。

「ごめん。俺達、失礼な態度を取ってたよな?」

今更遅い気もするが…。蒼空さんって人は、周りにこんなにも影響力を与える人なんだと知った。
凄いな…。私だったら、ここまで周りを変えることはできない。

「あんたはここに座りなよ。俺を選んでくれたんだから」

手招きされ、私は蒼空さんの隣に座った。
蒼空さんが私を呼び寄せたことにより、周りも動き始めた。

「あの…、ありがとうございました。先程は助けて頂いて」

「いいって。俺はアイツらの態度が、ずっと気に入らなかっただけ」

ズボンのポケットから煙草を取り出す。この人、煙草を吸うんだ…。
頭の中ですぐに、煙草を吸う姿が想像できてしまった。

「あの、ここ禁煙ですよ?外でなら吸えるみたいですが…」

吸っている姿を見てみたいなと思った矢先に、壁を見ると禁煙という文字が目に入った。
吸うモードに入りかけていた蒼空さん。禁煙ということを知り、あからさまにテンションがダダ下がりしていた。

「どうりで、さっきから灰皿を探してもないわけだ。
よし、お前、付き合え。外で煙草吸うぞ」
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