私が一番近かったのに…
蒼空さんが先に立ち上がり、手でこっちに来いと合図を送ってきた。
私は慌てて立ち上がり、その場を立ち去った。

「あの、いいんですかね?何も言わずに抜け出してきちゃっても…」

不安になり、聞いてみた。
すると、いきなり蒼空さんは笑い出した。

「マジだったんだ。合コンとか慣れてないって話」

どうやら、疑われていたみたいだ。嘘をついても、なんの得にもならないと思うが。

「なっ…!嘘なんてつきませんよ。こう見えて実は私、今日が初めてなんです、合コン」

目が点になっていた。そうだよね。今時、そんな子、早々いないよね。大学生にもなったら皆、合コンくらい、参加したことありますよね。
もし今、ここに穴があったら入りたい。初対面の人に、ここまで暴露しなくてもよかったのに。
でも、どうしてだろうか。この人には何でも話してしまう自分がいる。初対面なはずなのに、緊張感が一切なかった。

「ま、そんな気はしてたけどな。明らかに一人、雰囲気が違ったからな」

煙草に火をつけ、吸い始める。私はそれをただ横目で眺めていた。

「幸奈…だっけ?男には気をつけろよ。あんたどう考えても男慣れしてなそうだし。
そういう女は、変な男に付け狙われやすいからな」

そういえば、そんなこともあったなと、ふとあの出来事を思い出した。
あの時も愁が、慌てて駆けつけて、助けてくれた。
…って、ダメダメ。せっかく合コンに来たのだから、愁を思い出すのはもう禁止。

「それぐらい分かってますよ。私、そこまでバカな女じゃありませんので」

一応、反論してみた。この人は親切心で言ってくれているのだから、わざわざ歯向かう必要なんてないのに…。
どうして、私は素直にありがとうございますって、言えないのだろうか。

「俺の中のあんたの第一印象は、合コンに来て、こういう場に慣れてないんですなんて言うから、強かな女なんだろうなって思ってた」

良い人だと思ってたのに、まさかそんなふうに思われていたなんて。ショックを受けた。

「でも話してみたら、純粋な人だってことが分かった。
だから、忠告しておこうと思ったんだよ。男なんてやりたいだけだからな?騙されてポイ捨てとかされんなよ」
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