私が一番近かったのに…
また空気を読んで、先回りして動いてくれた。
せっかく、友達が誘ってくれたのに、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだ。
やっぱり、私はまだ忘れられないみたいだ。

「ありがとうございます。えっとこっちです」

まだ電車は走ってる。皆はこの後、どうするのだろうか。終電ギリギリまで飲むのかな?
私はとりあえず、帰宅したら寝る。そうすれば、何も考えずに済むから。
もう少し時間が経てば、きっと愁のことなんか忘れて、私もまた新しい恋をすることができるはず…。

「俺が言うのもあれだが、あんたが合コンに来たのって、人数合わせとか?」

この人は敢えて、私の核心に触れないようにしてくれている。その気遣いが、今はとても有難かった。

「いえ、ちゃんと誘われて来ました。蒼空さんは?」

確か先程、呼ばれたから来ただけだと言っていた。
たとえ人数合わせだとしても、どうして彼が合コンに来たのか、純粋に興味があった。

「まぁ、そこは友達付き合いというか、ただの人数合わせだな。
アイツら必ず俺を呼ぶんだよ。正直、俺は困ってるんだけどな」

困っていても、友達のためなら来る。
どこまでも、お人好しな人なんだと思った。

「友達思いなんですね。普通はそこまで付き合いませんよ」

「あ?そんなんじゃねーよ。他に断わる理由がなかったんだよ。ただそれだけだ」

これは絶対に照れ隠しに違いない。蒼空さんは言葉がキツいだけで、本当は優しい人なんだと思う。
彼のことを知れば知るほど、どんどん興味が湧いていく。

「蒼空さんって、ギャップ萌えですね」

もうとっくに怖いイメージはなくなっていた。
こうして話してみると、とても親しみやすかった。もっと彼と仲良くなりたいと、心からそう思えた。

「うるせーよ。なんだよギャップ萌えって。…お前、変わってんな」

「そうですか?変わってませんけど?」

「充分変わってるわ。俺の周りにいる女とは違う」

周りにいる女…。これだけ優しい人なら、さぞおモテになることであろう。
だって、放っておけないんだもん。この人のことを…。

「遠回しにモテるアピールですか?…って、私、そんなに変わってますかね?」
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