私が一番近かったのに…
自分では気づいていないだけで、そこまで私は変わっているのかと思うと、少しばかり凹んだ。
これから少しずつ、普通の女子になっていこう。目指せ!普通女子…。

「そんなアピールなんかしてないわ。それに俺はモテないから。
あと変わってるって、俺にとっては褒め言葉の意味で言ったんだよ。あんたみたいな女、出会ったことなかったから、なんだか新鮮だ…」

頭をワシワシされたので、髪がボサボサになってしまった。

「もう!髪がボサボサになっちゃったじゃないですか!せっかくおめかししたのに……」

なんてブツブツ文句を言っていたら、後ろから抱きしめられた。
今、何が起きたのか、私はこの状況を上手く飲み込めなかった。

「なんだかあんたのことが放っておけないんだ。
…もっとあんたのことが知りたい」

耳元で甘く囁かれた。それだけで、身体がビクンって反応してしまった。
つい、いつもの癖が出てしまい、恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。

「ごめん。いきなり抱きしめて。今すぐ離れるから、安心しろ」

ゆっくりと身体が離れていく。
どうして、抱きしめられても嫌じゃなかったのだろうか。自分でもよく分からなかった。

「だ、大丈夫です…。びっくりはしましたが」

私は愁以外の男性を知らないので、これがどういう意味なのかよく分からなかった。

「あと、敬語で話さなくていい。幸奈が嫌じゃなかったら、連絡先を教えて欲しい」

「いいよ。教えても」

もう敬語で話すのを止め、すんなりと連絡先を教えた。
出会ったばかりで、いきなり抱きしめてくる人のことを、簡単に信用したらいけないのかもしれない。
でも、私はこのまま終わらせたくないと思った。
まだこの人と話したい。愁以外の人に初めてそんな感情を抱いた。

「教えてくれてありがとう。必ず連絡するから、待ってろよ」

それから、蒼空はずっと黙っていたので、私もなんだか黙ってしまった。本当に家の近くまで送ってくれた。
さすがに家までは気が引けたのか途中で、「ここまででいいか?」と言われ、私も「いいよ。送ってくれてありがとう」とお礼を告げた。
「気にすんな。またな」と頭を撫でて去ってしまった。
それから、蒼空は本当に連絡をしてくれた。暫く蒼空とのやり取りは続き、いつしか愁のことを考えることも減った。
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