私が一番近かったのに…
どうして愁は、連絡をしてこないのだろうか。
きっと私から別れを告げたことが原因で、向こうから連絡したくてもできない状況なのかもしれない。
だとしたらこの場合、私から連絡をするべきなのだろうか。電話をかけたら、出てくれるのかさえも怪しい。
結局、途中で通話は切られてしまった。あの慌てぶりから察するに、休憩中にこっそりと抜け出し、電話をかけていたら、そこに愁が居合わせた…といった感じであろう。

私達の問題だから、放っておけばいいのに。それができない中山くんは、本当にお人好しだ。
彼はいつも私達の状況を把握してくれていた。もしかしたら、中山くんが一番、私達のことを考えてくれていたのかもしれない。
不運な人だ。知りたくもない事情を知ってしまい、周りに振り回されてしまうなんて…。
さぞもどかしかったであろう。二人がすれ違う様は…。

私達のすれ違う様を見ていると、あまりのもどかしさに助言もしたくなるであろう。
わざわざ中山くんが知らせてきたということは、私の方から愁に連絡すべきということなのかもしれない。
しかし、そんな時に限って、運悪く蒼空から連絡がきてしまった…。

“幸奈、元気か?今度の週末にでも会わないか?”

もし先程、中山くんから連絡がこなければ、蒼空の誘いに快くオッケーサインを出していたに違いない。
私って現金な女だ。愁の本当の気持ちを聞いて、心がこんなにも揺らいでしまったのだから。
蒼空の誘いがあともう少し早かったら、その時は蒼空を選んでいただろうか。
きっと答えは変わらなかったと思う。いずれ愁の気持ちを知ってしまったら、私は何度でも愁を選ぶに違いない。
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