私が一番近かったのに…
もう待てない。自分の気持ちに気づいてしまった以上、逸る気持ちを抑えきれなかった。
携帯と鍵だけを持ち、外へ飛び出した。まずは蒼空へメールを打った。

“誘ってくれてありがとう。
でも、ごめんなさい。用事があるので、難しいです”

せっかくの出会いを無駄にしてしまった。蒼空、ありがとう。でもごめんなさい。
蒼空へのメールを打ち終えた後、携帯で愁に電話をかけながら、懸命に走った。
もうどうしたらいいのか、分からなかった。この想いは一体、どこへ向かっていくのだろうか。

何度呼び出しても電話は繋がらなかった。
当然だ。別れを告げたくせに、気持ちを知った途端、掌を返そうとする女なんて、相手にされるはずがない。
ずっと鳴り響くコール音に、そろそろ諦めかけていた。
いつかかけ直してくれることを信じて待とうとした、その時だった…。

「さ……な……、」

同じく携帯を片手に持ち、立ち尽くしている愁が、自分の目の前にいた。
私はこの状況を上手く理解することができなかった。

「しゅ…う……?どうしてここに?」

「それは俺だって…!そうか、中山の電話相手は幸奈だったのか」

どうやら愁は、私がどうして今、ここにいるのかを、ようやく理解したみたいだ。

「アイツ、変な気を回しやがって。何がバイトを代わってやるだよ。ったく……」

あからさまに不機嫌な態度になった愁を見て、中山くんの言葉が嘘のように感じた。
でも、私はここで引き下がらなかった。もう逃げないと決めたから。

「中山くんから色々聞いたよ。気を利かせて教えてくれたの。
ねぇ、愁。どうしてあの時、彼女と別れたことを教えてくれなかったの?私は教えて欲しかった……」

何から話せばいいのか、分からなくなってしまい、まずは一番知りたかったことを直接、本人に聞いてみることにした。
本当はもっと落ち着いて、ちゃんと順序立てて話したかった。そんな余裕なんてなかった。早く愁の本当の気持ちが知りたかった。
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