私が一番近かったのに…
「愁、頭を上げて。そこまでしてくれなくても大丈夫だから」

あなたは何一つ悪くない。
だから、ここまでしてくれなくても大丈夫。

「俺は幸奈を傷つけた。心だけじゃなく身体も。怒りに身を任せて、酷いことをした。
せめて、その事に関しては謝らせてくれ。すまなかった…」

深々と頭を下げ、誠意を見せてくれた。
真っ直ぐな彼の想いに触れ、私の心は揺すぶられた。

「ありがとう。謝ってくれて。でも、もうそのことは気にしなくて大丈夫だよ。
これは私からのお願い。そうしてくれないと私も困るから。それでいい?」

「分かった。もうこの件に関しては忘れる。
でも、次からは気をつけるから」

その言葉の続きを想像せずにはいられなかった。次もあるの?期待してもいいってことだよね?
早くその言葉の続きが聞きたいと、心臓がドキドキしていた。

「でもな、黙って手紙だけ置いて逃げるのは、それはダメだ。さすがに俺も傷ついたぞ」

あれ?待っていた言葉の続きではなかった。どうして、いつもこうなってしまうのだろうか。
確かにその件に関しては私が悪い。あそこまでやる必要はなかった。
そんなことよりも、今はもっと大事なことがあると思うんだけど。

「その件に関してはごめんなさい。もう二度とそんなことはしないので、許してもらえますか…?」

「許してもいいが、一つだけ条件がある」

一体、どんな条件なのだろうか。私にできることであればいいのだが。
< 280 / 346 >

この作品をシェア

pagetop