私が一番近かったのに…
「そう言われてみれば、そうかも。お邪魔しても大丈夫なら、愁のお家に行きたい」

初めて男の人のお家にお邪魔する。しかも、好きな人の家に…。
自分の家に上げるよりも、人ん家にお邪魔する方が何倍も緊張するかもしれない。

「俺から誘ってるんだから、大丈夫に決まってるだろうが。
それじゃ、決まりだな。行くぞ」

こうして、愁の家にお邪魔することになった。
一体、愁はどんな家に住んでいるのか、全く想像できなかった。


           ◇


「お邪魔します…」

自分ん家からそんな遠くない距離だと知ってはいたものの、いざ来てみると思ったよりも近くて驚いた。
中へ入ると、愁の部屋はシンプルだった。あまり物を置いておらず、必要最低限といった感じだ。

「悪いな。散らかってて。男の一人暮らしだから、大目に見てやってくれ」

とはいうものの、物があまりない上に、清潔感もあるので、ちゃんと掃除をしている様子が見て窺える。

「ううん、そんなことないよ。充分過ぎるくらい、綺麗だよ」

「そう言ってくれてありがとうな。
…ちょっと待っててくれ。今、お茶を用意するから」

待っている間、どうしたらいいのか分からず、あまりジロジロ見るのは気が引けてしまい、ずっとモジモジしていた。
ただ座って待っているのも案外、大変なのだと知った。

「お待たせ。どうぞ」

私の目の前にお茶が置かれた。二人の間に今、微妙な空気が流れている。
私はあまりの気まずさに、お茶を一口飲んだ。

「……美味しい」

「だろ?これ一緒に京都へ行った時に買ったやつなんだ」

そういえば、京都へ旅行に行った時に、愁がお茶を好きという新たな一面を知ったのを、今思い出した。
そんなことすら忘れてしまうほど、気持ちに余裕がなかったのだと思い知らされた。
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