私が一番近かったのに…
「これがあの時のお茶なんだ。美味しいね。愁が好きなのも納得」

「嬉しいな、そう言ってもらえて」

今までに見たこともないような、穏やかな表情だった。
誰しも自分の好きなものを理解してもらえたら嬉しい気持ちになる。
よかった…。愁のこんな顔が見られて、ほっとした。

「幸奈、今から俺の話を聞いてくれないか?」

真剣な眼差しで私の目を見ながら、そう問いかけてきた。
今から愁の話を聞かなければならないのかと思うと、より緊張してきた。

「うん、いいよ。愁の話を聞かせてほしい」

こちらとしては、先程の話でもう充分、聞きたかったことは聞けたので、満足している。
一体、今からどんな話を聞かされるのだろうか。
たとえどんな話であったとしても、今の私なら落ち着いて愁の話を聞くことができるはず…。

「さっきも言ったが、改めて言わせてほしい。俺はちゃんと彼女と別れた。
いや、正確には付き合ってはいなかったんだ。話がややこしくなるが、今から話す話は真実なんだ。
だから、ちゃんと落ち着いて、話を聞いてほしい」

ん?今、付き合ってなかったって言った?それはどういうことなのだろうか。
何が何だかよく分からないまま、私は話の続きを聞くことにした。

「あ、うん。分かった。ちゃんと話を聞くから。
それでその…、付き合ってなかったってどういう意味なの?」

告白されて、付き合うことになったと聞き、今日までずっと疑うことなく、その言葉を信じてきた。
でも、まさか本当は付き合っていなかったと知り、どこか心の中で安心している自分がいた。
しかし、何故、嘘をつく必要があったのだろうか。その理由を早く知りたい。
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