私が一番近かったのに…
「俺はずっと見栄を張ってたんだ。幸奈が全く俺のことを好きだって認めないから、ヤキモチを妬いてほしかったんだ」

どうやら、私は今までヤキモチを妬かせるための作戦に、付き合わされていたみたいだ。
こんなの納得できない。それに今まで愁の彼女だと思っていたあの子が可哀想だ。

「なるほどね。だから、今まで私に嘘をつき続けてきたってことね。
それで嘘をついた手前、なかなか本当のことを言うタイミングを逃したってことでしょ?」

「お恥ずかしながら、そういった感じです…」

つまり、私はセフレになる必要なんてなかったということになる。
あの時、素直に気持ちをぶつけていればよかったのかもしれない。
って、そんなことできるか。普通彼女ができたと聞いたら、その段階で諦めてしまうものだ。
どうして、こんなにも二人して不器用なのだろうか。遠回りしてばかりだ。

「俺はくだらない男の意地を張って、幸奈を傷つけてしまった。
そんな意地なんか、張らなければよかったのに…」

愁もずっと苦しかったんだ。嘘をつき続けたことや、傷つけてしまった罪悪感で。
ずっと愁の心の中で抱え込んでいたのだと思うと、その痛みが伝わり、私も胸が苦しくなった。

「もうお前を悲しませたりしないと、絶対に約束する」

愁の本気の決意が伝わってくる。私をこんなにも大切に想ってくれていたなんて知らなかった。
これまで頑張ってきた想いが、報われたように感じた。

「悲しませないのは当然でしょ?今までたくさん辛い想いをしてきたんだから。
そうさせた原因は、私がはっきりと気持ちを伝えなかったせいでもあるけど」

二人して空回りばかりしていた。この関係が壊れてしまうことが怖くて、いつしか素直になることを恐れていた。
こうして今、ようやく素直に気持ちを伝え合えるようになったのも、遠回りしたお陰かもしれない。

「いや、俺のせいでもある。そうやって、人任せにして、逃げたんだ」
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