私が一番近かったのに…
「真剣に告白してくれたから、俺は最初、断るつもりでいたんだ。
でも、幸奈の反応がイマイチで、気持ちが分からなくて。
最後まで悩んでいた時、彼女から提案してくれたんだ」

“岩城さんって、一緒にアルバイトしているあの子のことが好きですよね?”

「彼女は最初から、俺の気持ちを知った上で、告白してくれたんだ。
それから彼女は、俺のために協力して彼女のフリをしてあげますよって言ってくれて。それが全ての始まりだった」

だから、お互いに温度差があったのだと納得した。
彼女はずっと愁のことを好きだったから、私とは違う方法で愁を手に入れた。
しかし、愁に協力して上げたくても、膨らむ気持ちには抗えなかった。
愁は彼女の気持ちに応えてあげられないまま、気持ちはすれ違っていくばかりで…。
きっと彼女も辛かったと思う。そして、同時に私を見る度に、さぞかし憎かったと思う。
私だって、彼女がずっと憎かった。愁の隣を簡単に奪い、私の居場所は失われたのだから。
苦肉の策として、セフレになった。ずっと彼女になりたいと考えては、落ち込んでいたあの日々。きっと一生忘れない時間となった。

「フリまでは分かった。でも愁のことだから、彼女と関係は持ったんだよね?」

関係を持っていないと信じたいが、もう過去の話だ。
私もたくさん過ちを犯した。今なら聞かなかったことにして、許せると思う。

「そりゃ、まぁ…。最初は拒否したんだよ?
でも、襲われたら身体が抵抗できなかった」

最低…と、心の中だけで呟いた。早くもこの先が不安になってきた。
もし、可愛い女の子に誘われたら、ホイホイと付いて行ってしまうかもしれない。
付き合うことになったばかりで、いきなり浮気を疑うのは良くないが、それでも不安になってしまうのは、まだ自分に自信が持てないからかもしれない。

「とりあえず、彼女がテクニックを持っていたということは分かったわ。
それで、セックスに不満を持つなんて、彼女が可哀想に思えてきた」

呆れて彼女に同情してしまった。こんな最低な男のどこがいいんだろうかと、考えてしまった。
惚れた方の負けという言葉がある。正しくその通りである。
私はこの人を嫌いになることができないんだ。仕方ない。こんなにもあなたのことを好きになってしまったのだから。
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